時効が成立している借金が意外に多い件。


私が消滅時効について初めて習ったのは、大学2年の民法の講義だったと思います。

飲み屋さんのツケは1年で消滅時効にかかりますよ(民法174条)、というのが印象に残っています。

債権の消滅時効は原則10年であることや、商事債権の場合は5年に短縮されるなど習いましたが、「1年ならともかく、貸したお金を5年も10年も放ったらかしにするわけないじゃん・・・」と当時は思ってたわけです。

しかし実務やってみると消滅時効が完成しているケースは非常に多い。とりわけクレジット・サラ金の借金については、結構消滅時効が成立しているケースがあります。

お金を貸している方が裁判を起こして判決を取れば、時効はリセットされ10年の時効期間をカウントし直すことになりますが、案外裁判はやられていない。大手の貸金業者でもやっていないことは珍しくありません。

先日もそんな案件を受任して、法テラスを使って時効援用の内容証明を送りました。最終支払日から5年(サラ金・クレジットの借金は商事債権なので5年で時効です)経っていればそれでおしまい。5年経つ前に判決取られていれば別ですが。

京都簡易裁判所からの封筒:ヴァラモス・ギルドからの訴訟


先日、京都簡易裁判所から突然手紙が届いて、ヴァラモスとかいう会社から訴えられた、という相談がありました。相談者に対し100万円以上を請求する内容で、借金していたことがあったが、ヴァラモスなんて会社は聞いたことがない、というものでした。

ヴァラモスはかつては信和、山陽信販、ハッピークレジット、トライトという会社であり、そこから借入したものを請求する訴訟でした。利息や遅延損害金を合計すると、借り入れた当時の倍くらいの借金になっていましたが、すでに借金の消滅時効が完成しており、時効援用すれば問題なく裁判には勝つことができます。訴えられた側がキチンと対応すれば負けることはありません。

ヴァラモスはこういった訴訟を大量に起こしているといわれ、その数は年間4000~5000件程度と推定されています。なぜ勝てないような裁判でも行うのか?これは、訴えられた側が裁判所に出頭しない、あるいは消滅時効を使わなければ、ヴァラモスは勝訴することができてしまうからです。もちろん借りた側は裁判で負ければ消滅時効を使うこともできなくなります。

なお、このヴァラモスという会社は京都から大阪に移転し、名前もギルドというものに変わっています。移転後にギルドは大阪簡易裁判所でも同じ事をやっているという話をちょくちょく聞いています。

時効完成後なのに借金が復活?時効は言わなければ認めてもらえません!


京都簡裁をはじめ、各地の簡易裁判所で時効後の貸金請求訴訟が多発しているそうです。

毎日新聞 2012年06月25日 大阪朝刊

「京都簡裁で昨年夏ごろから、京都市の金融業者(現在は大阪市に移転)が全国の個人債務者を相手取り、数千件規模の貸金返還請求訴訟を起こしていたことが分かった。中には消滅時効期間(5年)を過ぎた債権もあるが、大半は債務者が出廷せず業者の勝訴が確定。この業者は複数の消費者金融業者から大量の債権を受け継いだとみられ、多重債務者の支援団体は「債務者の知識の乏しさに乗じた方法で、立ち直りの妨げになりかねない」と警戒を強める。」

借金の消滅時効は、最終支払日から5年で時効完成ですが、この5年が過ぎたとしても、借金が消滅するわけではありません。

消滅時効を援用する、という手続きが必要になります。これは、消滅時効を使って借金を消滅させます、という意思を貸し手に伝えるというふうに考えてもらえばいいです。一般的には内容証明郵便を使って内容や差出日を証明できるようにし、消滅時効の援用が時効完成後に行われたことを確実に証明する方法で行います

そして、貸し手が貸金返還請求訴訟を起こしてきたときに、この内容証明郵便を証拠として提出するわけです。すでに時効を援用しています、と伝えるわけですね。ちなみに裁判を起こされてからでも時効を援用することができます。この場合は内容証明郵便で行うのではなく、訴訟の手続きの中で時効援用することになります。

注意すべきは、「時効が完成したとしても、貸金業者が裁判を起こしてきたときは、時効援用の手続きをしておかなければ裁判で負ける」ということです。

時効の援用を忘れる、あるいは裁判を欠席して判決が出されてしまうと、貸金業者の請求がそのまま認められてしまいます。いわゆる欠席判決です。制度上、訴えられた側は欠席していると負けます。裁判官は、「この人は時効が完成しているようだからダメ!」とは決して言いません。時効を援用する借り手がそれを言わなければならないのです。

ただし、判決が出てしまったとしても、確定するまでは時効援用は可能です。判決は2週間で確定してしまいます。早めに専門家に相談されることをお勧めします。

 

 

時効援用は当然!という理由


貸金業者が裁判所に訴えでれば確実に勝つことができる借金の請求を、遅延損害金が元金を上回るほどまで放置したのを請求するのはどうなんでしょう。元利金は実際に借りた金額の倍以上になっているわけです。借主に支払う義務があるのはもちろんですが、貸主も横着していたと言えるのではないでしょうか。

時効制度というのはそういうもののためにあるものと思っています。「権利の上に眠るものは保護に値せず」という法格言がありますが、時効が完成するほど眠りこけていた債権者を保護する必要はないということです。

そして放置されて膨らんだ借金を、バルクセールで元金の6~7%ほどの値で買取って、借主に満額の支払いを求める貸金業者はどうなのか。消滅時効が完成した後の借金であれば、回収の見込みが薄く、買う側は買い叩くことができるわけです。こういった業者に対し、消滅時効を援用するのに躊躇することは何もないように思うのです。

借金の支払いが滞ると、最初は貸し主から返済の督促が来ますが、そのうち借金の支払い先が別会社になることがあります。支払い先が変わるのは様々な事情がありますが、滞納の末のことであれば、不良債権の処理として、サービサー等に借金を売られたためかもしれません。この際の売値は当然、借り主への請求額より安いものになっています。場合によっては数%ということも。

買い叩いた借金で、元利金を含めた全額を顧客に請求するわけです。もし時効が完成しているとすれば、それを利用することになんの遠慮が必要なんでしょう?

と、私は思っています。

 

貸した方は案外、返ってこないとわかっている。 ~貸倒引当金について~


a1180_001396「借りたものは返さねばならない」というのは正しいと思いますが・・・貸した方は意外と事実を直視しています。貸した方にとっては、お金が返ってこないことは想定の範囲内です。

貸した方(貸金業者やクレジットカードを扱う信販会社)は貸倒引当金(かしだおれひきあてきん)を積んでいます。このお金は借主からお金が返ってこなかった場合に、このお金を代わりに返済に充てるというものです。貸したお金のうち、どれだけ返ってこなかったかを計算し、その金額を予め積み立てておくわけです。あのたっっっかい利息はこの貸倒引当金にも一部使われています。これはどこの貸金業者も積んでおり、裏返して言えば、どこの貸金業者も貸したお金が返ってこないことを事実として受け入れているわけです。

しかも、貸金業者やクレジットを扱う信販会社は税制上、このお金を損金算入できる(積んだお金は税金がかからない!)そうです。平成23年にこの貸倒引当金制度は、損金算入できる範囲を縮減する形で改正されましたが、貸金業者や信販会社に関するものは維持されたようです。

とはいえ、支払いを滞納すると、貸した業者から電話がかかってきて返せ返せと言うわけですが、電話をかけているのは督促の担当者だからということに過ぎません。そのうちそれも止むわけですが。

とにかく、「貸したものは返さなければならない」というのは大変正しい考えだと思いますが、貸した方、特に貸金業者は案外そうも思っていない、という話です。この考えに取り憑かれて適切な対処ができなかったり、体調を崩す方が本当に後を絶ちません。

私としては、もーちょっと気楽に考えてはどうかと思っています。

 

ティーアンドエスが自宅に訪問して取り立て


ここ最近増えている相談です。

突然ティーアンドエスという会社から、かつて滞納した借金に多額の延滞金を加え「最後通告」などと書いた督促状を送りつけられ一括返済を求められた、あるいは名を名乗らず「ティーアンドエスの人間ではない」と言う男が自宅にやってきてティーアンドエスへの一部返済を求めたり、返済計画をいついつまでに電話せよ、と言われた、という相談を立て続けに受けました。

相談者はかつてアエル、タイヘイ、GMOネットカードなどから借入れて滞納し、それから5年~10年程度経ってから、ティーアンドエスから取り立てを受けています。上記の会社とティーアンドエスの間には、クリバース、プロマイズという会社があり、最終的にテイーアンドエスが債権譲渡を受けています。ティーアンドエスは時効を迎えたような不良債権をサラ金から買い集めているようで、私が受任した件の半分以上は消滅時効が完成していました。
5年の消滅時効の期間を満了していれば、内容証明郵便で時効の援用をするだけで解決してしまいます。最後の支払日から数えて5年です。
期間満了前に裁判を起こされ、判決をとられていればまた起算日と期間は変わってしまいますが・・・
そういった事情がなければ元金を含めて借金を支払わなくても良くなります。

但し、時効の援用をする前に、借金の一部でも返済していると、時効期間はリセットされ、時効の援用はできなくなります。
ティーアンドエスはこれを狙っています。「1万円だけでもいいから」と執拗に一部弁済を求め、時効援用を妨害します。実際に支払ってしまった方もいました。私に連絡を頂いた前日に支払ってしまった方がおり、依頼者の方ともども大変悔しい思いをしました。

借りたものは返さなければ、というのはその通りだと思いますが、お金を貸したほうも5年も放ったらかしにしていたのも事実です。
5年を経過する前であれば、貸したほうが裁判を起こしていれば確実に勝つことができたでしょう。
それにも関わらず放ったらかしにしていたのは、貸していた方も回収が難しいと考えて諦めていたということです。
判決を取ったとしても、借主に強制執行できるような財産がなく、勤務先もわからないような場合には、どうにもなりません。
会計上、「回収不能」として処理していることもあるようです。

ティーアンドエスはそういった債権を書い集めて支払いの催促をして、だまし討ちのような形で時効援用を阻止しようとしているわけです。
時効を使って借金を帳消しにするのに、あまり遠慮をする必要がないように思います。

ティーアンドエスの「集金予告通知」


ティーアンドエスの件の続きです。

先日の記事では、最終支払日から5年以上経っていることが結構あるので、時効の援用を内容証明郵便ですれば終わってしまう、ということを書きました。しかし、もしも一部でも返済してしまえばこの時効の援用は使えなくなってしまうので注意が必要です。
先日の相談者は一部だけ支払ってしまいました。それは、下記の「集金予告通知」が本当に怖かったということでした。

相談者に「集金予告通知」なるものを送り、突然訪問して取り立てる、イヤなら下記口座に遅延損害金も含めて全額一括で振り込め、という内容を通知しています。
しかもティーアンドエスからの借入ではなく、別会社に対する借入の取り立てを行なっています。
下記はその通知の内容です。

貴殿は当方より再三再四に渡り送付しております通知に対し、何等誠意を示して頂けませんでした。従いまして、このまま同様の対応では任意に御支払頂けると考えられる余地が無いと判断するに至りました。そこで我々は貴殿に対する債権を訪問・集金による回収手続きに進めさせて頂くことになりました。現時点に於いては、集金対象者リストの作成、並びに費用・日数等の算定は終了し、地域によっては、既に集金対応を開始している所もあります。我々としては、穏便に解決を図ろうしておりましたが、貴殿にその意思は無い様でしたので、貴殿のご希望に沿い、突然の訪問により、交渉・回収を図ることと致しました。貴殿に誠意ある対応が無い以上、我々としては、このまま放置する訳にはいきません。事の解決に至る過程に於いて、訪問・集金に支障がある方は下記金額を下記期日までに一括にて御振込願います。 以上

おどろおどろしい文章で、読むだけでなにやら不安を煽られます。
ちなみに相談者はティーアンドエスから支払いの催促を受けるのはこの通知が初めてで、しかもかつての借金がティーアンドエスに譲渡されていることも初耳ということでした。

そうだとすれば、民法第467条1項により、ティーアンドエスは相談者に借金の譲渡されたから支払え、とは言えないことになります。元の借入先から相談者に、ティーアンドエスに譲渡したことを通知しないと、相談者に請求できません。
砕いて言うと、「ウチからティーアンドエスにあなたの借金を譲渡したよ。これからはティーアンドエスに払ってね。もうウチに払ってもダメだよ。」ということです。

まずはこの通知をしていたかどうかを確認していきたいと思います。