被後見人の一人息子の葬儀と埋葬 その3


亡くなった息子さんの携帯電話は、相続人の代理人として受領したわけですが、そのメモリーには、職場と思しき番号がありました。そこに連絡すると、会社は大騒ぎになっていた模様です。既に警察から亡くなったことは伝わっていました。

亡くなった息子さんはその会社で定年を迎えており、その後嘱託職員として雇用されており社内での信望が非常に厚かったようです。家族葬で行う予定だったので、会場の席が足らず、焼香してすぐ帰って頂くような形になってしまいました。そして社員の方の有志が、通夜の番や受付を申し出てくれました。葬儀の弔問は深夜まで続き、その会社の社長を含む200名を超える方が来られました。

また、埋葬するのにも困りました。お墓がどこにあるのかはおろか、あるかどうかも定かではなかったのです。葬儀を行う際に、どの宗教で葬儀を行うかも非常に困りました。結局、葬儀が終わってから関係者の方への聞き取りや、亡くなった息子さんのご自宅の捜索などをする中で、なんと息子さんは父の月命日に毎月仕事の休みをとってお寺へ行き、お坊さんにお経を上げてもらっていたことがわかりました。非常に信心深い方だったようで、お財布に般若心経を入れておられました。そのお坊さんのお寺はお墓を持っていないため、お墓はないということもわかり、最終的には京都の本山のお寺に納骨をしてもらうことになりました。

息子さんが先に亡くなられることは正直想定していませんでしたが、この件で何事にも事前の準備が重要ということを痛感しました。もっとも、生きておられる方に「お墓はどちらにありますか?」とか「信教は?」などと聞くのもなかなか難しく、新たな悩みを抱えることになったわけですが・・・

相続人間を借金が飛び回る!相続放棄は事前準備が大事。


相続の相談を受けるなかで、たまに「相続を放棄した」とおっしゃる方がいらっしゃいます。聞いてみると、相続人との間での遺産を分ける相談の中で、自分は相続分はいらない、とおっしゃったことを相続放棄した、と思われていることがあります。

自らが受け取ることができる相続分を受け取らず、他の相続人たちに分けたという点では、相続放棄と似た部分もあるのですが、これは相続放棄ではなく相続分を他の相続人に譲渡した、ということになります。その違いは、亡くなった方の債務を引き続き負うか負わないか、という点です。

相続放棄をした場合は、亡くなった方の財産は勿論、その方が生前負っていた借金も相続しません。「はじめから相続人でなかったのと同じこと」になります。

一方の相続分の譲渡では、自らが得られる相続分を譲渡するので、亡くなった方の財産も借金も渡すことができるのですが、借金に関しては相続分の譲渡を受けた人と連体して責任を負うという点が違います。平たく言えば財産だけは渡せるが借金は渡せない、ということです。

相続放棄の手続きは、正式には「相続放棄申述書」を作成し、それを亡くなった方の最後の住所地を管轄する家庭裁判所に亡くなってから3ヶ月以内に提出する必要があります。戸籍等で亡くなった方と相続放棄をする方の相続関係を明らかにし、亡くなったことを知った時(亡くなってから3ヶ月以内に申し立てが必要であるため)、相続放棄をする理由、相続財産の概略を記載して提出することになります。

これらを亡くなってから3ヶ月でやり切るのは、相続人にとってはなかなか酷な話しだと思っていますが・・・ちなみに、亡くなった方の相続人である子の全員が相続放棄すると、相続の第2順位である亡くなった方の直系尊属が相続人になります。

財産より借金が多くて相続放棄をする場合が多いわけですから、相続人となった直系尊属(お父さんやお母さん)も相続放棄したほうがいいでしょう。亡くなった方の親ですから、相当高齢なわけです。この方々にも相続放棄の手続きをやってもらうことになります。亡くなってから3ヶ月以内に。

この方々がなんとか相続放棄を成し遂げたとして、その次は亡くなった方の兄弟姉妹が相続人です。借金の方が多い相続ならやはり相続放棄でしょう。しかし亡くなった方の兄弟姉妹は近くに住んでいるとは限りません。それでもやっぱり亡くなってから3ヶ月以内に相続放棄をする必要があります。

相続放棄をすると、順繰りに次順位の相続人に借金を含めた相続分が行ってしまうわけです。なので、事前に打ち合わせしておかないとエライことになります。亡くなった方の借金が親類を回っていくわけですから。相続放棄したなんて知らなかった、という相続人がいらっしゃれば、その方が一手に借金を負うことになりかねません。

・・・このような大変な相続放棄ですが、キチンと準備すればどうということはありません。やる前に事前にぜひご相談下さい。一度始めてしまうと待ったなしで借金が相続人に移転し、ほんっとうに苦労します。相続人の方々はもちろん、途中でご依頼を受けた私も、ですが。

親より先に子が亡くなっている場合の相続 ~代襲相続について~


親より先にすでに子供が亡くなっていて、親が亡くなって相続が開始すると、その子供に子(親から見て孫)がいた場合は、その孫が子供の相続分を相続します。これを代襲相続といいます。

ちなみに直系卑属が代襲相続する、という規定になっています。直系卑属とは、平たく言えば亡くなった方の子孫です。一人でも存命の方がいれば、その方が相続するということです。

曾孫(ひまご/そうそん) 玄孫(やしゃご/げんそん)来孫(らいそん) 昆孫(こんそん)仍孫(じょうそん) 雲孫(うんそん)、という順番になるようですね。これら直系卑属が一人もいなければ、昨日記事にしましたが亡くなった方の直系尊属が相続人になります。なお、当然ですが直系尊属が既に亡くなっていても、代襲相続は発生しません。法律の規定というよりは、亡くなった方も、その直系卑属もいないためですね。

直系尊属もいない場合は兄弟姉妹が相続人になるわけですが、この相続人が既に亡くなっている場合もその直系卑属に代襲相続が発生します。但しこの代襲相続は1回限りです。昭和55年にこの改正がなされ、それまでは兄弟姉妹にも再代襲相続が認められていたのが1回のみに制限されました。上記の子の代襲相続のところで玄孫とか来孫とか記事にわざわざ入れたのは、この違いを印象付けたいためです。

なお、代襲相続については、相続人が相続欠格の場合、相続廃除の場合も発生しますが、相続放棄をした場合は代襲相続は起こらない、というのも重要な点ですが、このあたりはまた独立の記事にして詳しく書きたいと思います。

 

相続人は誰?相続の順序について


人が亡くなると、相続が発生して、その財産全体が相続人に帰属します。
では相続人とは誰になるのか、順番があります。

亡くなった方の配偶者は常に相続人になります。これは亡くなった時点で配偶者であることが必要で、離婚していたり、既に亡くなっている場合は相続人になりません。

亡くなった方の子供がいれば、この子供も相続人になります。配偶者がいる場合は、配偶者と子供は一対一の割合で相続します。子供は何人いても全員で一の割合です。

子供がいない、または既に亡くなっているいて子供もいない場合、亡くなった方の直系尊属、父母や祖父母が相続人になります。配偶者がいる場合は、配偶者と直系尊属は二対一の割合で相続します。直系尊属が複数いても全員で一の割合です。

直系尊属もいなければ、亡くなった方の兄弟姉妹が相続人になります。配偶者がいる場合は、亡くなった方の配偶者と兄弟姉妹は三対一の割合で相続します。兄弟姉妹が複数いても全員で一の割合です。

以上が相続の順番の基本的なルールです。あくまで基本で、「亡くなった方の相続人が既に亡くなっている場合の相続のルール」「認知していない子は相続人になるか?」「亡くなった方の遺言を隠した人はどうなるか」など、特別ルールは多岐に渡ります。順を追って解説していこうと思います。

 

遺言で財産を渡す子が、親より先に亡くなったら? ~平成23年2月22日最高裁判決~


父親が2人の兄弟のうち、長男にすべての財産を相続させる旨の遺言を書いたが、親より長男が先に死亡し、その後3ヶ月後に父親が亡くなった場合に、遺言の効力はどうなるのか?という事案でした。

①遺言ですべての遺産を相続する予定だった長男に代わり、代襲相続により長男の子が父親(祖父)の財産を相続するのか。

②あるいは遺産を相続する予定だった長男が亡くなっているので、その遺言は効力を失い、法定相続となり長男の子と次男が半分ずつ相続するのか。

わかりやすくするため実際の事案より少し単純にしていますが、平成23年2月22日最高裁判決では原則、②の考え方となることを明らかにしました。

『「相続させる」旨の遺言に係る条項と遺言書の他の記載との関係,遺言書作成当時の事情及び遺言者の置かれていた状況などから,遺言者が,上記の場合(筆者注:推定相続人が被相続人より先に死亡した場合)には,当該推定相続人の代襲者その他の者に遺産を相続させる旨の意思を有していたとみるべき特段の事情のない限り,その効力を生ずることはないと解するのが相当である。』

本件では上記の特段の事情がなかったということです。長男に全部相続させるとしか書かれていなかったようです。まさか長男が先に亡くなるとは思っていなかったということなんでしょうねえ。しかし遺言は亡くなった時に効力を発生するものですので、あらゆる事態を想定しておく必要があります。

逆に言えば、遺言に「私が死ぬ前に長男が亡くなったら、長男の子に相続させる」とはっきり書いておけば、長男の子が相続できるということです。上記の「特段の事情」ですね。一言書き加えるだけで、結果は全く変わってしまいます。

 

 

相続人もいろいろ


私が受任する相続財産承継業務は、様々な理由で依頼されます。

まず、亡くなった方が89歳で、相続される方も60代だったケース。私の専門性に期待したというより、専ら「細かい字が読めない(読む気にならない)」という理由で依頼されたのが実際のところのようです。確かに少し昔の戸籍は手書きですし、自治体職員の方は必ずしも達筆な方ばかりではなく、相当目を凝らさないと読めないものも多くあります。また保険証書なども相当細かい字で書かれていることがあります。老眼の方にとっては相当苦痛になるようです。

また、「日本語が読めない」という方からの依頼も。この方は日本国籍なのですが、生まれてからずっと海外に在住しておられる方でした。突然市役所から手紙が来て、日付と7桁の数字が並ぶ日本語の文書を見て、只ならぬ雰囲気を感じて相談に来られました。これは被相続人が滞納していた固定資産税を相続人に対して督促をする手紙でしたので、依頼者の予感は正しかったということになります。

しかし最も多いのは遠方の相続人の方からです。ここで言う遠方とは、相続人から見て相続財産が遠方にある場合、ということです。被相続人のお子さんたちが地元を離れて就職し、居住地が離れることが多くなったことが理由にあります。被相続人の財産があらかた名古屋にあり、相続人は近畿圏というケースでは、全く土地勘のない相続人の方々に代わって被相続人の葬儀・埋葬の手配や、自宅の後片付けと遺品回収をしました。

相続について困ったということがあれば、いつでもご相談下さい。

お葬式の費用は相続人の負担?


相続人でない親族が喪主となり、亡くなった方の葬式と埋葬をしたが、相続人がその費用を支払わなかったケース。

亡くなった方には子供がいたものの疎遠でした。親が入院したときの手伝いなどしておらず、危篤になったときも、予め葬儀の開催を断るなど関係は冷えきったものでした。一方の亡くなった方の兄弟は、入院の世話を行い、亡くなった方の葬儀を喪主として行うなど、自ら費用を負担して弔いました。

亡くなった方には遺産があり、第一順位の相続人である子供が相続したので、喪主をした兄弟がその子供に葬儀費用や埋葬費用など、およそ三百万円の負担を求めたが、子供は支払いを拒絶しました。亡くなった方の遺産を全て受け取りながら、葬儀費用等の一切の支払いを拒まれたため、兄弟から子供に対してその支払いを求める訴訟を提起した。

事案を単純化するため割愛したところもありますが、名古屋で起こったケースです。結論としては、裁判所は亡くなった方の相続人に、葬儀費用等の支払いを費用支払いを命じませんでした。葬儀費用は喪主が支払うものであり、相続人が支払うものではないという、従来の判例の立場を変えませんでした。

甲斐甲斐しく世話をした兄弟は浮かばれないわけで、結論としては受け入れがたい部分があるかと思います。しかしながらこのケースは、相続に関する準備を怠った結果とも言えるのです。

というのは、この兄弟の方が亡くなった方の遺産から葬儀費用を支払ってもらうことは可能でした。亡くなられる前に葬儀費用について合意があれば、です。亡くなられた方が認知症で、きちんと合意を残すことができないなどの事情があれば別ですが、そうでなければその合意を書面に残していれば遺産から費用を支弁してもらうことは可能でした。おそらく、亡くなられた方の意向にも沿うものであったでしょう。多くの高齢者は自らのお葬式の費用を意図的に残しておられます。

葬式の費用が遺産から出ると疑いなく思っておられたのかもしれません。しかし、残酷かもしれませんが、準備不足が招いたことを悲劇と言っていいのか、とも思います。遺言・相続の分野においては、準備は極めて重要です。亡くなってしまってからではできないことがたくさんあります。